コラム[オンライン瞑想と師資相承]

新型コロナウイルス感染対策で密閉、密集、密接を避けるために大勢での集会や会合が出来なくなった。自宅謹慎を要請されているため、退屈で時間を持て余したり、運動不足に悩む人も多い。また、人と人との接触を断たれた孤独な高齢者の痴呆が進行しているなどの問題も起こっている。

このような状況下、インターネット動画サイトには有名無名のアスリート達によって沢山の身体エキササイズの投稿がなされている。ヨガのインストラクターによるエキササイズ動画も多い。

大勢が同席する会議が出来ないので、ムーブなどによるテレビ会議も急速に一般化した。学習塾などもオンライン授業が普及した。瞑想クラスをオンライン授業で行う試みもなされている。オンライン婚活やオンライン葬儀まで登場してきたのには、ここまで来たかと驚くばかりである。オンライン飲み会が行われるのだから、オンライン風俗もあるのかもしれない。

情報機器をつかって今までできなかった画像をともなう夢のような相互通信が可能になってきた。私のような高齢世代の者には只々付いていくのがやっとで、スマートホンさえ上手に使いこなせないでいる。

オンライン授業といってもやはり実際の授業には到底かなわないと私は思う。なぜなら、相対的な空間が遠く離れて隔絶しているからである。空間が隔絶しているとその場の雰囲気や人や場のエナジーが伝わらないからである。映画やCDによる音楽にもそういう問題はある。実体験や実演には遠く及ばない。例えドローン撮影による別視点の高質画像であっても、作られたものと実際体験する風景では雲泥の差がある。画像は2次元であるが、実際の風景は3次元で立体的である。気温も匂いも身体的な疲労感も画像では伝えることは出来ない。温泉旅館が源泉掛け流しの画像をネットのユーチュブに流していた。コロナウイルス騒ぎで温泉旅行も出来ないからせめて画像だけでも楽しんでリラックスしてくださいという趣旨なのだろう。コロナウイルス拡散非常事態宣言が解除されたら、温泉に是非来てくださいという宣伝メッセージが込められていると思った。

オンライン瞑想も補助的にあるいは本物の代替として使うならとても良い便利なものである。予告編として上手に宣伝として使うなら効果は高いと思う。しかし瞑想の高度な技法を30分程度にまとめ解説し実技も入れるとなると、伝えることは限界があり困難になる。せっかくの宝物が、猫に小判、豚に真珠となりかねない。他流派の瞑想実践者に、その瞑想技法の評価が低い方に誤解される恐れもある。便利な代替機器が身の回りに沢山存在する現代であるが、代替機器はあくまで代替であり、リアリティに乏しいのだと理解しておくべきだと思う。本当の智慧、すなわち解ったということは、知ること学ぶことではない、肉体を通してリアルな体験して掴むことであると私は信じている。

古来、ヨガや瞑想の伝授は師資相承であった。師匠が弟子の修行の進み具合に応じて適時適切に指導したのである。このことをウパニシャッドという。ウパニシャッドは弟子が師匠のそばに座ることを意味する。師資相承を思うとき、まっさきに私の脳裏に浮かぶのはミラレパの物語である。

今から1000年ほど前のチベットに偉大なる瞑想ヨガ行者・ミラレパがいた。ミラレパの生家は裕福な地主の家だった。ミラレパが7歳の時に父親が亡くなり、父の遺産は父方の叔父と叔母にだましとられてしまった。遺されたミラレパと妹と母親は貧困に苦しんだ。叔父と叔母に騙された母親の憎しみは激しく、母親はミラレパに「黒魔術を修行して、仇をとってくれ。」と旅費とグルへの貢物を持たせて旅立たせた。

ミラレパはクルンのラマのもとで強力な破壊の術と死をもたらすマントラの伝授を受けた。この術を使ってミラレパは憎い叔父、叔母の長男の結婚式披露宴に集まった人を、叔父と叔母を除いて長男と嫁を含む35人を殺害した。次にキョルポのラマ・トギャルのもとでミラレパは雹の嵐を起こす術を習得し、収穫近い豊作の大麦畑に雹をふらせて作物を台無しにしてしまった。こうしてミラレパは自分たちに味方しなかった無慈悲な村人たちへの復讐も成し遂げたのである。

雹の嵐を起こす術を授けたラマ・トギャルはミラレパに「お前は復讐を成し遂げたが同時に巨大な黒いカルマを積んでしまった。」「このカルマを浄化するために仏教の教えを学んだほうが善い。それがお前と私の来世の助けになるだろう。」と言って、ニンマ派のラマ・ロントンの所に向かわせた。

ラマ・ロントンのところでの修業はミラレパに成果が上がらなかった。ラマ・ロントンはミラレパをインドで修行を積んできたとされるマルパのもとで修行するようにと推薦してくれた。マルパはインドの高名なヨガ行者ナローパの弟子であった。

マルパは直観力によって霊的な繋がりのある大事な弟子が自分を訪ねてくることを知っていた。マルパはミラレパが黒いカルマを沢山抱え込んでいることを知って、このカルマを消滅させるには並大抵の方法では出来ないと考えた。

カルマを解消させるために無理難題を押し付け、何度もミラレパを絶望の淵に追いやった。どんなに、ミラレパが瞑想の伝授を求めても、カルマの解消を優先してマルパは教えを与えなかった。

ミラレパの最初の難題はマルパの息子の為に丸い家を作ることだった。「これを完成させたら瞑想を教える。」とマルパは言った。途中まで出来るとマルパは「考えが変わった。」とミラレパに言って、「建築に使った石は全部元あった所に戻せ。」と命じた。次に半月形の家を作るように命じた。半月形の家も半ばまで出来ると、「この家は善くないから壊すように。」とミラレパに命じた。マルパはその時酔っていたのだと釈明し、今度は密教行者にふさわしい三角形の家を建てるようにミラレパに命じた。

三角形の家が3分の1ほど出来上がった時、再びマルパがやってきて「誰がこんな家を建てろと言った。もし、わしがお前にそんなことを言ったとしたら、わしはまともではなかったはずだ。」とミラレパに言い、今度は九層建ての四角い塔を建てるように命じた。何としてでも教えを授かりたいと苦悩するミラレパの背中は労働によって傷だらけとなり、傷は化膿して痛々しい姿になっていた。

四角い塔が完成しないうち、ミラレパは他の人がマルパから教えを授かるときに、こっそり紛れ込んで教えを授かろうとした。その時マルパから酷く怒られて絶望のどん底につきおとされた。

それを見かねたマルパの妻であるタクメマは、マルパの一番弟子であるラマ・ンゴクパに主人に変わってミラレパに法を授けるように頼んだ。法を授けられたミラレパはいくら瞑想しても効果が現れなかった。ンゴクパのもとに師匠のマルパから「邪悪な人間であるミラレパを師匠のもとへ戻すように」と手紙が来た。師匠のもとに戻されたミラレパは、師匠から無視され続けた。絶望のあまりミラレパが自殺を考えていた時、マルパの息子の成人のお祝いが催されることになった。その時、ついに教えを授ける時がやってきた。祝いの席の主賓はミラレパであり、ミラレパにマルパから灌頂がおこなわれた。

マルパは言った「私の息子、お前に初めて会った時から、私にはお前が特別な弟子だと解っていた。お前に建てさせた家は四大元素と四種の仏陀の行為を象徴している。あの苦行のおかげで、お前の障害になっていたものは全て消えた。さぁ行って孤独な瞑想行に入るのだ。」

その後、ミラレパは各地の洞窟で孤独な瞑想を続けた。食べ物が無くなった時、イラクサで命を繋いだ。イラクサだけしか食べなかったのでやせ衰えた身体の皮膚の色も緑色になったと伝記では伝わっている。ミラレパは深い瞑想によって自分の体をどんなものにでも思いのままに変化できるように感じた。ミラレパは鷲になって実際に空を飛ぶことが出来るようになった。

ミラレパの物語はダイジェスト的にまとめるのは困難である。ここに書いた話はミラレパの物語のほんの一部にすぎない。伝記の内容はもっともっとエピソードが豊富で面白い。是非、皆さんに伝記を読んでもらいたい。

ここで私がミラレパの物語を持ち出したのは、「瞑想法の伝授というものは安易に伝えてはいけないのかもしれない。」と言いたかったからである。弟子に悟りへの渇望があって、条件が整ったときに師匠が慎重に師資相承で教えるべきものであるというのが伝統的な立場なのである。

別の考え方として、現代は情報が広く開示されている時代である。「原爆や水爆の作り方は盗まれると大変なことが起る可能性があるが。モークシャに至る方法が盗まれても人類に何の危害も与えない。モークシャに至る方法が広まれば世の中が平和になる。日本からプレクシャ・メディテーションを学びにインドに来られた皆さんは、しっかり学んでいって日本にプレクシャ・メディテーションを広げてほしい。」とムニ・ジャイ・クマール師は言われている。

私はクラスで実際に瞑想を教えるということを通じて、『学びにくる受講生から逆に教わっているのだ。』という立場、スタイルをとっている。インターネットを上手に使いこなすことが出来るプレクシャ仲間の皆さんは、オンライン瞑想によってプレクシャ・メディテーションを広げる活動に積極的に取り組んでほしい。そして、私が説くリアリテイ重視も参考にして、瞑想法を上手に伝える工夫をしてほしい。

<著:坂本知忠>
(協会メールマガジン2020/6/30からの転載です)

 

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