コラム:アカルマへの道・モークシャとサンミャク・ダルシャン 2017年3月20日(月) 東京・沖ヨガスタジオ サマニー・サンマッテイ・プラギャ師講演

今日はカルマから自由になる話をしたいと思います。ジャイナ教哲学では人間にとって最高の理想状態になることをモークシャと言います。私たちはモークシャになることを目指すべきであり、そして、モークシャになる努力をすべきです。モークシャになることはマハーヴィーラだけでなく偉大な教祖の示す道でもあります。モークシャになることは印度哲学の最高の目標であり、仏教もジャイナ教もヴェーダンタも同じです。それら、どの哲学も人間にとって最高の理想状態をモークシャといいます。モークシャになるには語るだけではだめで、モークシャになるための訓練、修行を始めなければなりません。我々一人ひとりがモークシャになることを最終目的とすべきです。

モークシャになるには3つの道があります。ずっと昔の古代の聖者の中には4つの道を歩いた人もいます。しかし、一般的には3つの道を歩くことで実現されます。モークシャを目指すなら、それに値する人にならなければなりません。解脱(モークシャ)するには、解脱するための資格が必要です。それには、まず真実・本当のことと、嘘・間違いを見分けることが出来る力が必要です。

1.正見―正しいものの見方が必要です。偏見や妄想でないものの見方が必要です。知識によってものを見るのではなく、言葉を変えるなら開けた目で全てを観ることです。

2.正しい知識―正しく観て 、正しく受け取ること(正知)です。

3.正しい行動―正しく学び、正しい訓練、修行をする必要があります。

正しく見、正しく知り、正しく行動するとはどういうことかというと:

正しく見るとは真実を信じられるということです。正しく見るとは物事を妄想を抱かないで見ることをいいます。この世の中を正しく観るとはそういうことで、この世の中を正しく観、そして我々自身を正しく観れば、我々は世の中を知ることができるし、全てのことを理解できます。そして、私たちは世の中を理解し、私たち自身を理解して、そのつながりを理解しようと努力することができます。そこには迷いや妄想は生じて来ません。誤解も生まれて来ません。それをサンミャク・ダルシャン(正しく観る)といいます。正しく観るとは真実を信じられるということです。

「サンミャク(Samyak)」 とは、正しいこと、真実、迷いがない悟りの状態を表す言葉です。

「ダルシャン(Darshan)」とは、観ること、運命という意味もあります。

サンミャク・ダルシャンとは揺るぎもない、迷いもない状態のことで、正しい見方、正しい生き方、正しい哲学のことをいいます。サンミャク・ダルシャンは本当のことと、嘘のことを見分ける見方(知力)のことです。

何が正しくて何が正しくないかを見分けられるから、そこから全てが始まります。まず、正しいものの見方は、本当の意味での明確な人間の目的を示してくれます。そして、それは世界中の人間に共通していることです。それこそが人類が体験すべきことで、その方向が自分の修行、訓練の方向で、力を得る方向です。

世の中にはいろいろな悲惨なことや悪いことがありますが、その根底にあるものは何が正しくて何が間違っているかが解からないところにあります。もしサンミャク・ダルシャンが自分の中に整ったと思ったら、次の6つのことについて自分自身に問いかけてみてください。

1.魂は有る。

2.魂は永遠。魂は死なない。輪廻転生する。
魂は永遠でないという考え方や魂はないという考え方もあるが魂は永遠と信じられないと自分を律することが出来ないし、好き勝手に生きても構わないという生き方になります。

3.魂はカルマに従っていて、カルマに拘束されています。

4.魂は為したことを受け取ります。
私たちは原因と結果の法則の中に生きています。何を考え、何を為したかで結果が起ります。今このようにある自分は、全て自分自身に責任があります。善因善果、悪因悪果。

5.魂はモークシャ(解脱)になれます。

6.モークシャの道を歩きたいと思っているか。
我々は全てのカルマを打ち砕き、解消してモークシャになることが出来ます。それがモークシャへの道です。

以上6つのことを理解していれば正しいものの見方が出来ていると言えます。モークシャに至るには基本としてサンミャク・ダルシャン、正しいものの見方を持っていることが必須で、6つのことを理解し信じていればその人をサンミャク・ダルシャーニといいます。サンミャク・ダルシャーニとなることがモークシャに至る基本で、建物でいえば基礎にあたります。

次にモークシャに至るには正しいマスター(導師)、正しいグル(教師)、正しい宗教が必要です。

正しい指導者と真実の宗教によって我々は真のサンミャク・ダルシャーニになれます。

では正しいマスター、正しいグルとはどのような人でしょうか?

本当の智慧を授けてくれるマスターは完全に無執着です。好き嫌いが全然ない。人間だけでなく、全ての生き物に対しても好き嫌いが全然ありません。全てを平等に無差別に見ることが出来る人です。マスターは本当の智慧を授けてくれる人ですが、グルはそれを人々に教えてくれる人です。

正しいグルとはどのような人でしょうか?

本当のグルは無所有を実践している人で、結婚していないし、お金を触りません。貯金通帳も持っていないし、土地も家屋も財産もありません。自分のものを何も持っていない人です。世俗生活から完全に離れた出家です。そのようなマスターやグルを見つけることは大変難しいことであるがとても大切なことです。日本にいなければ地球は狭いので旅をしてグルを探すのも善いでしょう。ジャイナ教では出家と在家の支え合いシステムが出来ています。日本でもそのようなシステムを作ることは可能でしょう。

間違ったマスターやグルを選んでしまったらどうなるでしょう。正しくないグルについてしまうと人生を無駄にしてしまいます。そしてモークシャに至る正しい道を歩くことが出来ません。だから、本当のマスターやグルを見つけるのに注意深く慎重でなければなりません。

正しい宗教とは完全なる非暴力を実践するものです。どんなものにも生き物たちにも暴力を加えないものです。我々は生きていくために食、衣、住、仕事(活動するところ)の4つはどうしても必要ですが、その必要なものに対してアヒンサー(非暴力)、サイグルタ(忍耐)、サンヤム(節度、制限、慎み深さ)が必要だと思います。それが正しい宗教の基本です。

正しいマスター、正しいグル、正しい宗教をもつことが本当の意味でのサンミャク・ダルシャーニであり、モークシャへの道の基本になります。修行しても努力してもサンミャク・ダルシャーニになっていなければ、得るものは少ないと思います。

サンミャク・ダルシャーニになると、恐れ、怒り、執着、混乱から離れられます。多くの善くない習慣から離れられます。鬱や自殺から離れられます。サンミャク・ダルシャーニになることで、多くの病気から私たちは守られます。

サンミャク・ダルシャーニになると、それがその人の行動に現れてきます。

1.シャムが出来るようになります。
シャムとはネガティブな気持ちをちゃんとコントロールできることをいいます。なので、ネガティブな感情はほとんど起こって来ません。

2.悟り(モークシャ)に対する強いあこがれを持っています。

3.全ての執着から離れることが出来ていて、完全なる無執着が実行できます。

4.慈悲の心が絶えることがありません。慈悲の心は全てのものに対してであり、その心が自然に備わっています。

5.真実、真理を信じています。

だから、サンミャク・ダルシャーニは困難、否定的なこともポジティブに肯定的に解決できます。どのような苦しい状態の時も気持ちは沈まないし、その困難を突き抜けていくことが出来ます。本当の意味で真実を追求していけば薬物中毒にはまるようなこともありません。サンミャク・ダルシャーニにならないとアカルマになることはできません。

カルマから解放されることの障害になること、つまりサンミャク・ダルシャニーの障害物は何でしょうか。

1.疑い
精神的なものに対して疑い深い人。人間の頭は常に疑いを作り出しています。

2.間違ったことを期待してしまうこと
他力本願、資格がないのに救いを求めてしまうことです。

3.自分の修行に対する結果に疑いを持ってしまうこと。例えば、この方法でモークシャに至ることができるかと疑ってしまうことです。

4.人々に間違ったことを教えてしまうこと。

5.間違った信念を持ってしまうこと。

これらのことがモークシャへの道の障害となるのです。

<著:坂本知忠>
(協会メールマガジン2017/10月第74号からの転載です)

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