ジャイナ教のカルマ論はヴェーダーンタ哲学や仏教とは少し違っている。ジャイナ教でカルマのことを考える理論では5つの事柄を中心に考えている。その5つのこととは:
1.魂
2.カルマ的な要素
3.バイブレーション
4.物質的カルマの解放
5.魂が純粋になった状態
カルマの理解の基本は魂(輪廻の主体となる魂つまりジーバ)について知ることが大切である。魂が無ければカルマは無い。宗教によっては魂はないと考える宗教もある。ある宗教哲学では宇宙の5大要素が集まった時、魂が出来て、肉体が死ぬと5大要素はバラバラになって魂は消滅すると説くものもある。ジャイナ教の魂はそのように消滅する物ではなく、永遠のものである。永遠なる魂がベースになってそこにカルマが付いたときジーバと呼ばれる。宗教によっては魂は無いという考え方がある。仏陀は魂を語らず説明しなかった。ジャイナ教では魂は説明できるという立場をとっている。魂とカルマが結びついたとき、その魂をジーバと呼ぶ。ジーバとは輪廻の中にある魂のことである。
魂のことをアートマンともいう。魂(アートマン)は一つのことであるが、二つの性質側面がある。それはドラビア・アートマンとパーヴァ・アートマンである。ドラビア・アートマンは基本的な魂のことで、まったく純粋な魂のことである。パーヴァ・アートマンはカルマ体によって影響を受けた魂をそのように呼んでいる。愛とか怒りとか感情や意識によって作り出された汚れのようなものが魂に付着している。魂の中にいろいろ感情的なものの凝りとか、活動したことの結果によるものとかが付着している、それらを含めてパーヴァ・アートマンと呼ぶ。基本的な純粋な魂ドラビア・アートマンは永遠。輪廻の中にある汚れた魂パーヴァ・アートマンも永遠なものである。パーヴァ・アートマンはそれぞれ違う体に宿りながら輪廻の中を動いている。
カルマもアートマンと同じように二つに考えることができる。ドラビア・カルマは宇宙全体に広がっていて、ずっと私たちの魂にくっついてくる素材のカルマである。宇宙のどこにでもある。ここにもある。あそこにもある。しかし我々には見ることは出来ない。意識的なものではなく、生きているものではなく、物質のようなものだが我々には見ることができない、宇宙全体に満ちている原材料のようなものである。ドラビア・カルマの中には色、匂い、味、触覚が含まれている。それは、肉体的なものに関係する。本当のカルマとは言えないがカルマの素材になっている、生き物ではない物質である。パーヴァ・カルマはカルマによって実った結果をいう。
(注:物質は魂に付着して、その下降性ゆえに魂を身体のうちに押しとどめ、魂の本来の特徴である上昇性が発揮できないようにしている。渡辺研二「ジャイナ教p171」)
アートマンにカルマが結びつくとバイブレーションが生ずる。私たち人間、生き物はカルマとアートマンを持っているから、魂は四六時中いつも、寝ている時もバイブレーションを起こしている。バイブレーションが起こることで、色々なものを引き寄せている。しかし通常意識ではこのバイブレーションは感じることはできない。魂にカルマが付くことで二つが一つになり波動が起こり、その波動によってさまざまなものを引き付ける力が生まれる。波動によって宇宙に漂っている、充満している小さな粒々、カルマのもととなるドラビア・カルマを引き付けている。ちょうど、磁石が砂鉄を引き付けるように。魂はドラビア・カルマを全方向から、魂に一番近いところからより沢山、受け取っている。思考だけでも宇宙からカルマを引き寄せている。肉体はスカスカである。そのスカスカの空間に物質を引き付けている。
なぜ、魂が縛られてしまっているのか。それは、カルマがあるから。ではカルマは何によって縛られてしまうのか。それは迷いによってである。なぜカルマを引き寄せてしまうのか。マーハーヴィーラはゴータマに話した。それには二つ理由があって、一つは無知と行為によっておこるのだ。もう一つは執着と精神的な誤解、妄想、混乱によっておこると説いた。また、プロマーダとカシャーイも身(行動)、口(言葉)、意(意識、マインド)によってカルマを引き寄せている。引き寄せられたものがまた、新しいカルマを引き寄せている。
1.プロマーダ (Pramaad)
惑わすもの(迷い、妄想、誘惑)。永遠なる喜びでなく、一時的な快楽を本当のものと思ってしまうこと。魂(スピリチュアル)なことでなく、肉体的な喜びの迷い。肉体は永遠でなく、魂は永遠。
2.カシャーイ(Kasaay)
もう一つの惑わすもの。4つの情欲のこと。
1、怒り・アンガー 2、慢心・エゴ
3、強欲、貪り・グリード 4、偽り、虚偽、騙す・デシード
カシャーイすなわち情欲がなくなれば、物質は付着する可能性が少なくなる。
カルマによって我々の行動は違ったものとなる。いろいろな人の違い、個性別はカルマによって起こる。アートマン(魂)の性質は、生まれることも死ぬこともないというもの。永遠の智慧と永遠の理解と永遠の至福が備わっている。魂は苦しみがない。魂は形がない。魂に高いとか低いとかはない。皆同じである。そして、魂の奥には永遠の力が備わっている。その力は私たちの魂が持っている自然のものである。もとからあるものである。しかし、我々はそれをなかなか信じられないし、感じることは出来ない。なぜなら、我々の知識は極めて限られたものであるからだ。例えれば、それは大海の中の一滴の水でしかない。我々は極めて少ない知識しか持っていない。それぞれの知識は又、違っている。知識を沢山持っている人もいれば、持っていない人もいる。知識の理解度も人それぞれ違う。ある人はすぐ理解できるし、ある人はなかなか理解できない。我々の苦しみも違う。沢山苦しむ人もいる。そうでない人もいる。我々の呼吸もみな違う。社会的に高い地位にある人も、低い地位にある人もいる。我々は生まれたり死んだりする肉体を持っているので限られた時間しか持っていない。魂は永遠なのに、なぜ私たちはこんなに限られた生き方をしているのか?この違いはどこに原因があるのか? それがカルマというもので、カルマがそれを生じさせている。
ジャイナ教の8カルマ
1.ギャーナ・ヴァラニーヤ・カルマ
知識障害や知識の容量に関係している。魂の持つ知の能力、理解力を覆い隠してしまう。
2.ダルシャナ・ヴァラニーヤ・カルマ
信仰障害。魂に備わる見(信仰)の能力を覆い隠してしまう。
3.ヴェーダニーヤ・カルマ
感受の障害。
4.モーハニーヤ・カルマ
迷妄によって執着心を生じさせる。信仰と行為を惑わすカルマ。
以上4つのカルマは善くないカルマで、善くない結果を生じさせる。
以下の4つのカルマは善いことをすれば善くなり、悪いことをすれば悪くなる。
5.アーユシュ・カルマ
寿命に関係している。
6.ナーマ・カルマ
身体上の相違をもたらすカルマ。男女に生まれる違い。健康に恵まれる恵まれない。肉体的な不調和、美醜。尊敬される、されない。
7.ゴートラ・カルマ
社会的なステータスに関係している。生まれる家柄の上下貴賤を決定する。
8.アンターラヤ・カルマ
内部障害に関係している。目的に到達できることの困難度に関係している。ある人は目標達成が簡単であるが、ある人にとっては大変困難である。
我々は悪いカルマに気づき、カルマに縛られないようにしなければならない。ジャイナ教では苦行者は苦行の実修によってカルマが結果を作る前に原因を除去できるとしている。
カルマ体にカルマ(物質)が結びつくとカシャーイ(4つの情欲)が生まれる。そのカシャーイがもとになってアドバシャーイ(感情)的動きを作っている。
魂はバイブレーション波動のようなものを起こしている。周波数が高い極めて微細なものである。カルマ体からアドバシャーイまではとても微細なものである。バイブレーションはレーシャの領域に来ると、色がつけられているわけではないが、我々が色として知覚できるレヴェル(段階)となる。ここからは色が力になっていく、色の力が我々に影響する。肉体的にホルモンが出る。ホルモンが脳の機能に影響し科学物質が生成される。頭に浮かんだことで行動する。そのプロセスが逆に内側に影響する。魂から外へのプロセスと逆の外から魂へのプロセスがある。
(協会メールマガジン2017/9/1からの転載です)