コラム:活用する喜び

不殺生を積極的にすることが活用です。活用は殺すなではなく活かせという教えです。生き物だけではなく、人間が生きて行く上で必要な物についても粗末にするな、大事にしなさいと云う教えです。私は生き物だけでなく、物にも心が宿っていると思っています。その心というのはある種のエネルギーでネガティブなものとポジティブなものとして主観的に感じます。人間に粗末にされた物や打ち捨てられたものにはネガティブなエネルギーが宿っています。それらの物に対して愛の心、大事にする心、活用する心で接していくとポジティブな物に変化します。打ち捨てられたものや場所を愛し助けてあげると、今度は助けたものが私達を生かし助けてくれます。それが自然法則です。

大量生産・大量消費システムは一見、人類を幸せにするシステムに思えますが、沢山の物を粗末にし、殺すことなので長い目でみれば人類を幸福にするシステムではないと解ります。世の中は全てが変化の流れの中にあり、必要な物が出現し、不要な物が滅していきます。これも自然法則です。

しかし現代人類社会は変化の流れが加速しているので、沢山のものを創り沢山の不要物を破棄しています。私達はあまりにも日常多くの不要物を廃棄しているので、心が麻痺して生活の必要物をあまりにも粗末にしています。自転車が1万円で買えるなんて本当に考えたらおかしな事なのです。自分一人で作るとしたら、とても難しいことです。江戸時代に自転車を持っていたら、それこそ宝ものです。その宝ものが今や町中、至る所に破棄されていて厄介者、ゴミとして処理されています。これらの自転車を徒歩で生活しているマダガスカルの人々に届けられないかと思います。

大量につくられたものはどんなに価値を有していても、需給バランスが崩れて需要が無くなれば金銭価値は限りなくゼロに近づいてゆきます。近年の不況は社会が成熟化したからともとれますが、工業化、便利化、快適化のやりすぎに起因しているのではないかとも考えられます。全ての生き物達との共存、サステイナブルな社会システム構築の観点から、今の資本主義経済に対して人類の良心が許せなくなってきたのではないかと思っています。

最近、著名な作家・五木寛之氏の『下山の思想』と云う本が話題になっています。日本は世界史的に見て繁栄の時代が終焉し成熟後の活力の乏しい社会になるとの論調です。本の題名が時代にマッチしたせいかベストセラーになっています。本を読んでみて、何処に下山してゆくのか具体的に触れられていなかったのでとても物足りなく思いました。私なら下山してゆく場所を具体的に指し示すことが出来ます。それは彼が漠然と云っている経済指数とは別の物差しのことです。ブータン王国的幸福指数の事です。下山とは私達の生活から複雑な機械を手放して行くことです。身体の延長としての道具までの時代にもどることです。

昭和30年代食料増産のため、日本の米作道具が最高水準に達しました。道具ですがエンジンを持たないし電気を使わないから機械と定義しませんが、機械寸前まで高度化した道具が作られました。私はここが下山地点だと思います。電気で機械を動かさない、電気は照明器具に使うだけとします。車も化石燃料を使わないところまで、馬車、人力車、自転車、リヤカーを使うまでにします。そして住環境や町や村の景観を芸術的にまで美しく整えてゆくようにします。個人がそれぞれ美しい庭を競って作り、共同で石畳や石垣の美しい路地を作ってゆきます。それが大事な下山の道筋だと思います。下山とは揺り戻し、反動でありルネッサンスのことだと考えます。田舎から都市に流れた人口が都市から田舎に流れるようになることかもしれません。

日本は少子高齢化、人口減少がこれからどんどん進行し50年後は4000万人の人口が減るとの予測がなされています。東京、千葉、埼玉、神奈川以上の人口がなくなるのです。下山するとはこの事です。人口減少によって需要が減少し大量の物が余ってきます。余ったものは値が付きません。今でも、余った物が沢山出て来て、本来価値あるものが値崩れして悲惨な状態になっています。ネットオークション市場で、総欅のしっかりした茶箪笥がたったの5500円で落札されていました。本来の価値から云ったら20万円するでしょう。美術品の値下がりも甚だしく中堅の洋画作家の油絵が本来価格の20分の1、30分の1の値段になっています。これからの時代、中古住宅やリサイクル家具調度品なども余って来て考えられない安値になっていくでしょう。お金がかかるものと云えば食べ物位になるでしょう。食べ物は安全安心が求められるので、逆に高くなってゆくような気がします。多くの人が自分の食べ物や生活必需エネルギーを自分で作るということに、今よりずっと価値を見い出すようになるでしょう。

需給が有り余って金銭的に無価値になったものの中から、宝のような価値を見い出し、それを愛の心で活かすならば下山後の時代も悲惨になりません。むしろ今よりずっと精神的に豊かな時代となるでしょう。

<著:坂本知忠>
(協会メールマガジン2012/3/25からの転載です)

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